皆さんこんにちは。
楽しくヒコーキです。
今回は横風制限値の重要性について書いていきます。
なお、ここで出てくる風は全てSurface Wind(地上の風)になります。
それではよろしくお願いします。
成田は陸の孤島、羽田は着陸できるかギリギリ
台風が直撃している最中、羽田空港に向けて夜が明けてヨーロッパや中国・東南アジアからの便がどうにか着陸できないかと、エンルート上(空港から離れた所)で旋回しながら上空待機をしていました。
当時の風は朝、6:25分現在の情報で280度から24ノットとなっていました。
羽田空港の滑走路は、340度を向いている滑走路(比較的長い)と220度を向いている滑走路(比較的短い)があります。
風が280度からなので、340度を向いている滑走路だと340-280=60となりやや横風になります。
日本の航空会社が定めている横風制限値は25ノットなので、当時の24ノットだと一応下回っているという状況になります。(ちなみに、24+2=26で2ノット増えると制限値オーバーです。)
風がこんな状況の中、オーストリアウィーンから来たANA206便が着陸を試みようと、羽田空港のアプローチ管制に詳しい風の情報を要請して、340度を向いている滑走路か、220度を向いている滑走路のどちらに着陸しようかコックピットで、検討していたと思われます。
検討の結果、ANA206便は340度を向いた滑走路に着陸を試みることにしました。
1回目の試み→ゴーアラウンド
340度を向いた滑走路に向けて順調に降下していた最中、管制官からANA206便のパイロットに驚きの一言を伝えました。
その内容とは、
「ANA206便へ、340度を向いている滑走路ではウインドシアがマイナス20kt発生していて現在アラートがなっています。」(もちろん本当は英語で伝えられました。)
このウインドシアとは……んー僕がわかる範囲で図に書いてみます。
小話①:ウインドシアとは
作・下手な図: 楽しくヒコーキ大先生
このように、航空機が進む方向に対して、短い区間で向かい風、下降気流、追い風が入り乱れている状況をウインドシアと言い、航空機は向かい風が強いと上昇しやすくなり、下降気流があると地面に叩きつけられるように降下し、追い風が強いとスゥっと知らぬ間に降下してしまう、つまりウインドシアのようにこれらの風が入り乱れていると、上昇下降を繰り返すことになり場合によっては失速して墜落する可能性もあります。(実例→イースタン航空66便着陸失敗事故)
そのため、管制官は機械でこのウインドシアを感知した場合、なおかつそのウインドシアが20ktを超えた場合はパイロットに、「ウインドシアアラート!」と警告します。
ウインドシアの小話はここまでにして、元に戻します。
終わり。
本題再開
そして、ウインドシアが報告されながらもパイロットは少ない着陸できる確率を信じて進入を継続します。
順調に進入したANA206便はアプローチ管制から着陸許可を発出するタワー管制に移管しました。
着陸許可された時の風は280度から24ノットで、相変わらず25ノットの制限値ギリギリの状況です。
管制官が、パイロットに着陸直前に一方送信した風の情報では、270度から28ノットとなっていました。
はい。28ノットなので制限値オーバーです。
これに驚いた(?)パイロットは、もう一度風の情報を教えるように要請しました。
その時には、280度から30ノットと完璧にオーバーしています。
なので、一回目の試みはゴーアラウンドになりました。
2回目の試み→再びゴーアラウンド
1回目の試みはゴーアラウンドになったので、ANA206便はまたアプローチの管制官と交信します。
そして、また風の情報を聞いて着陸滑走路を再検討します。
その時聞いた風は、280度から22ノットと制限値を下回っている状況になっていました。ゴーアラウンドしてから5分もたっていませんよ。
ついてないパイロットですね~
それは、おいておいてこの場合制限値を下回っているので再び進入を試みます。
また話したいことができたので、
小話②: カンパニーチャンネルではブチギレるパイロット
パイロットが交信する無線には大きく分けて2つあって、1つ目は管制官と交信するもの。
2つ目は、自社のディスパッチャーと交信するものがあります。このチャンネルでは、気象情報やお客様情報を共有します。
あんまり詳しい事を言うと、これこそ電波法違反になるので言わないんですが、カンパニーチャンネルではパイロットがディスパッチャーにキレることがよくあります。
特に、上空待機などパイロットにストレスがかかる場面になると、管制官にキレることはできないので、ディスパッチャーへの怒りはさらにヒートアップします。
例
ディスパッチャー
「羽田へはあと30分ほどでアプローチ開始できる見込みです。それまではオオシマ(大島)待機になります。」
パイロット
「了解。ウインドシアとかマイクロバーストのレポートありますか。」(マイクロバーストとはウインドシアの下降気流が強い版みたいなやつです。)
ディスパッチャー
「……」
パイロット
「あの!聞こえてますか?」
ディスパッチャー
「はい聞こえております。現在確認中です。」
パイロット
「聞こえているんだったらば返事してよ(怒)!返事しなかったら聞こえてるんだか分からないでしょ。」
ディスパッチャー
「はい。」
パイロット
「あと、あーた(訳=あなた)インフォメーション全然伝えてないよね。そっちから送ってくれないとこっちは忙しいんだからさー…」
後はご想像におまかせします……
この小話はここまでにして、2回目の進入を開始したってところに話を戻します。
終わり
本題再再開
再びアプローチ管制から、着陸許可を発出するタワー管制へ移管しました。
タワー管制の管制官から、ANA206便へ着陸許可を発出した際の風の情報では270度から25ノットになっています。
このままだと、制限値オーバーなので着陸時に制限値以下になる事を祈りながら進入を続けます。
着陸直前に管制官からANA206便に一方送信された風の内容は、280度から29ノットとなっておりまたまた着陸する時になったらば制限値オーバーになってしまいました。
なので、2度目のゴーアラウンドです。
そして、またこのANA206便の乗務員や乗客が可哀想になることが、ゴーアラウンドしたあと直ぐに管制官からパイロットに伝えられた風の情報は、280度から22ノットとゴーアラウンドを決心した直後に、制限値を下回っていました。
あと、1分着陸が遅ければ降りられていたのに可哀想です。
ディスパッチャーの考えの変化
このANA206便の2回目のゴーアラウンドを機に、上空待機していた他のANA機は中部国際空港に目的地を変更していました。
おそらく、このまま上空待機をしていても着陸の見込みが無いとディスパッチャーが判断したのでしょう。
しかし、ウィーンからのANA206便はまだまだ羽田空港への着陸を試みます。(3回目)
3回目の試み→まさかの?!
アプローチの管制官から伝えられた風の情報は、280度から21ノットと先程を比べてかなり風が弱くなってきました。
そして、アプローチ管制から着陸許可を発出するタワー管制へ移管しました。
着陸許可が発出された時の風は、280度から22ノットG(gust)37ノットとなっています。
なので、突風が吹かなければ制限値以下なので着陸できる見込みが出てきました。
ANA206便は進入を継続して、パイロットが着陸するか、どうかの決心高度付近で管制官は280度から22ノットG33ノットとなっていて、この時点では制限値を下回っています。
結果、……
ANA206便は三度目の正直で3回目にして、無事着陸しました。
これを皮切りに、後続機も続々着陸してきました。
なので、今回の件で横風が25ノットを超えるか超えないかの大きな違いがお分かりいただけたかと思います。
今回はここまでにしようと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。