航空ファンによる航空・旅行ブログ

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【実例から学ぶ】飛行機から緊急脱出する際のシナリオ~離陸中止編~

皆さんこんにちは。

楽しくヒコーキです。

今回は、離陸中止の時に飛行機から緊急脱出する手順や詳細について書いていこうと思います。

それではよろしくお願いします。

 

 

離陸中止とは

 

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離陸中止とは、管制官から離陸の許可を発出された飛行機のパイロットがエンジンのスロットルレバーを前に倒した後に、離陸や飛行に重大な影響を及ぼす何らかの事が発生した際に行われる動作の事を言います。

離陸中止の原因としては、離陸滑走中に鳥と接触するバードストライクが発生した場合、滑走路に他の航空機が誤進入した場合、計器にエンジントラブルやシステムトラブルが発生した事を示す表示がされた場合、また管制官から離陸中止を指示された場合などが考えられます。

中には例外もありますが、この離陸中止は離陸決心速度の「V1(ブイワン)」を過ぎているとオーバーランの可能性があり実施することができません。V1を過ぎて何らかの問題が発生しても離陸を強行します。

この離陸中止は、英語のReject Take offの頭文字をとってRTOと呼ばれる場合があります。

 

大韓航空B777 離陸時のエンジン火災

 

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当該機とは関係ありません。


概要

株式会社大韓航空所属ボーイング式777-300型HL7534は、平成28年5月27日(金)、同社の定期2708便として東京国際空港滑走路34Rから金浦国際空港に向けて離陸滑走中、12時38分ごろ、第1(左側)エンジンに火災が発生したことを示す警報が作動したため、離陸を中止し、同滑走路上に停止して、非常脱出を行った。

同機には、機長ほか乗務員16名及び乗客302名の計319名が搭乗していたが、この非常脱出の際に乗客40名が軽傷を負った。

(事故調査報告書から引用)

 

軽傷者はいたものの、死亡者がいなかったので模範的事例かなと思いこの事例を参照に話を進めていきます。

大韓航空B777羽田空港の滑走路から離陸しようと離陸滑走をした際、エンジンの火災が発生したため離陸中止(RTO)を実施しその後、滑走路上に緊急脱出をしました。

 

緊急脱出時の交信

 

この大韓航空2708便は、離陸滑走中に第一エンジンで火災が発生しました。

この時のパイロットと管制官の無線での交信内容です。

 

管制官:

Korean Air 2708, your No.1 engine fired. Stop immediately, Stop immediately.

(大韓航空2708便。第一エンジンで火災が発生しています。直ちに停止しなさい。直ちに停止しなさい。)

パイロット:

Korean Air 2708, reject take-off on runway34R. 

(こちら大韓航空2708便。RWY34R上で離陸中止します。)

管制官:

Understood. We saw fire from your No.1 engine.

(了解。貴機の第一エンジンから火が見えました。)

 

火災を視認した管制官パイロットに、事象と指示を短く伝えました。これによりパイロットは離陸中止を実施し、緊急脱出をするか判断をします。

 

管制官:

Korean Air 2708 fire trucks are going to you. 

(大韓航空2708便へ、消防車が向かっています。)

 

パイロット:

Korean Air 2708 , mayday, evacate, evacuate on the 34R.

(こちらは大韓航空2708便。緊急事態を宣言する。RWY34R上に避難する。)

 

滑走路に乗客が出ることはできませんが、管制官に報告した上で機長の判断により滑走路上に緊急脱出をすることになります。この時、滑走路は閉鎖されていますので滑走路に出ても問題ありません。

この頃滑走路上には、消防車や救急車、航空局の車両が集まっていると思います。

 

パイロットのやること

 

パイロットは離陸中止を決心したらば、スロットルレバーをアイドルの位置に戻しエンジンへの燃料の供給を止め(エンジン停止)、パーキングブレーキをかけ、客室に状況を伝え(詳しくは後述)、この事を確認するチェックリストを実施します。

また今回は、エンジンからの火災を認めたため飛行機に搭載してある消火剤を使って、エンジン火災の消火に努めます。

パイロットがエンジンに搭載してある消火剤を使うことが、初期消火に当たるため迅速に行動します。さらに、同時に管制官と交信をします。

 

客室乗務員のやること

 

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客室乗務員は、離陸中止をした理由など知る由もないのでコックピットからの連絡を待ちます。

コックピットからのアナウンスによってその事例の緊急度が伺えます。

ここからは大韓航空のマニュアルをもとに記しますので、大韓航空以外の航空会社のマニュアルとは異なります。

 

大韓航空のマニュアルによると、非常脱出が予想される場合はパイロットが機内アナウンスを使って、"Attention crow at station.(乗務員は持ち場で次の指示を待ちなさい。)"とアナウンスします。

その後、緊急脱出が必要の場合には"This is the captain. Evacuate, evacuate.(こちらは機長。緊急脱出、緊急脱出。)"と機内アナウンスで放送します。

また、大韓航空のマニュアルにはこのような記載もあります。

 Note ) If an emergency fire or other conditions make certain exits unusable,state the direction of egress,and evacuate on the runway,if possible. The PIC should make a decision on the direction of exits depend-ing on which engine has the fire,wind direction,attitude and position of the aircraft and the extent of aircraft damage.

つまり、今回のような火災の場合など使えない脱出口がある場合は明確にどちら側のドアから脱出するかを指示することになっています。

 

脱出をする際に客室乗務員は乗客に指示を出します。

Release Seatbelts!
Get Out! Leave Everything!

ここらへんは、ドラマや映画でもよく流れると思いますがシートベルトを外し全ての荷物を置いて外に逃げて!と大声で指示します。

 

ここからは、非常口の操作や非常脱出についてです。

 4.6.8 ACTIVATE EXIT AND EVACUATION-Door Exit
・Quickly confirm armed status of exit.
・Open exit. Utilize all available exits by requesting passenger assistance when responsible for more than one exit.
・If exit is jammed or slide/raft is not usable, attempt to open it again and(if necessary),redirect passengers to an alternate exit using appropriate command.
・Command the first passengers."Stay At Bottom! Help People Off!"

(仮訳)
4.6.8 非常口の操作及び非常脱出
・非常口の準備ができているか直ちに確認する。
・非常口を開ける。ひとつ以上の非常口を担当する場合は、乗客に手助けを要求して全ての利用可能な非常口を利用する。
・もし非常口が開かなかったり、スライド/ラフトが使用不能な場合は、再度開けることを試みる。(必要に応じ)乗客に適切な指示を出して代わりの非常口に向かわせる。
・最初に脱出する乗客に次のように指示する。
・「(スライド/ラフトの)下に留まって!他の人が降りるのを手伝って!」

(仮訳も含め、事故調査報告書から引用)

飛行機に乗ると「キャビンアテンダント、セットスライドバー」(ANA)や「客室乗務員はドアモードをオートマティックモードに変更し、相互確認を行ってください。」(JAL)といったアナウンスを聞くと思います。

これは、ボーディングブリッジが離れたあと飛行機のドアを開放したらばすぐに脱出スライドが膨らむようにする設定をしてね!と言う意味です。これによりドアを開けると脱出スライドが膨らみます。

飛行機のドアの床付近にある膨らんだ部分に脱出スライドがあります。

機長の指示に沿うように、この脱出スライドを展開させます。

 

乗客のやること

 

この大韓航空2708便の事故調査報告書の分析の章に次のような記載がありました。

同社は出発前にデモンストレーション・ビデオや客室乗務員による説明で緊急時の対処要領について注意喚起している。

しかし、実際の非常脱出時には、乗客は冷静さを失って客室乗務員の指示等に従わない行動を取る場合があるということを考慮し、航空会社及び航空当局は、乗客を含む広く一般に対して、非常脱出時の安全情報について、ハイヒールや手荷物等がスライドを損傷させ使用できなくするおそれがあること等の設定理由とともに更に周知徹底を図り、より確実な理解と認識を促す方法について検討することが望ましい。

 とした上で、

乗客においても、迅速で安全な非常脱出を行うために、航空会社が周知する手荷物を持ち出さないことや脱出スライドの適切な使い方、脱出後は機体から十分離れることなどの注意事項や安全情報を十分に確認し、非常脱出時には、運航乗務員及び客室乗務員の指示に従うことが自他の生命を守るために極めて重要であることを理解して行動することが望まれる。

この文章には激しく同意します。

以前の記事にも書きましたが、セーフティービデオを見ていない人が機内では目立っています。僕の考えですが、セーフティービデオの内容では取り扱っていない大切な内容も、安全のしおりでは取り上げられていると考えています。


airplanelove.hatenablog.jp

 

安全のしおりは見てもらえないけどセーフティービデオならば見てくれるだろうと考えてセーフティービデオを制作したものの、セーフティービデオすら見てくれないという事が常態化しています。これは、非常に危険な状態です。

緊急着陸をする飛行機ならば、脱出まで時間があるので再度客室乗務員がレクチャーする時間はあります。しかし、離陸中止からの緊急脱出はレクチャーする時間は1分も1秒もありません。

1分1秒も惜しい中、日本語、英語、第三国語で説明するとなると脱出までの時間は致命的に伸びます。

しかし、説明しないでただ単に「外に逃げて!」と言っているだけでは、もしかしたらばハイヒールを履いたまま脱出した客のせいで、脱出スライドが破れてしまうかもしれません。脱出スライドが破れても、それは致命傷です。

このように、セーフティービデオを見ていないと離陸中止をした際に場合によっては致命的に脱出が遅れる可能性があります。

なので事故調査報告書にある通り、有事の際はとにかく客室乗務員や運航乗務員の指示に従うべきだと思います。飛行機には90秒ルールと言うものがあり、脱出にかかる時間が90秒を超えると、火災など二次被害の危険が高くなります。

パニックになると余計な行動が増えてしまいます。ここまで真面目に読んだ方はもう大丈夫だと思うので、今度はこの事を一人でも多くの人に伝えてほしいと思います。

 

「乗客のやる事は、搭乗時にはセーフティービデオや安全のしおりを見て、有事の際は客室乗務員や運航乗務員の指示に従うようにして下さい。」

 

今回はここまでしようと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。