航空ファンによる航空・旅行ブログ

このブログの面白みがわかる人は、きっと飛行機好きです。

世界から出遅れている羽田空港は今後どのように変化するべきなのか。新ルートも徹底的に考える。

皆さんこんにちは。

楽しくヒコーキです。

今回は来年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、国際線の大幅増など歴史的な変化を迎えようとしている羽田空港について書いていこうと思います。

それではよろしくお願いします。

 

国際的なハブ空港とは程遠い現在の姿

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ソウル・香港・シンガポール・東京

この4地域の空港で、アジアのハブ空港の立場を争ってきました。

その昔、成田空港はアジアと北米をつなぐハブ空港として存在感を示していましたが今となっては、貨物のハブ空港の役目は香港に、旅客のハブ空港の役目はソウルに奪われてしまっています。

奪われてしまった理由としては、成田空港が24時間空港でないことが深く関係しています。

ソウルも香港も24時間空港であり、運用できない時間帯がある成田空港を今の時代で「国際的なハブ空港と言うにはかなりの無理があります。つまり海外のエアライン目線から見ても成田よりソウル。成田より香港と競争負けしてしまうことになります。

そのため、羽田空港の再国際化を第一次安倍政権時に決めて、2010年に羽田空港D滑走路の供用開始をしたことを機に32年ぶりに成田に移った(定期)国際線が羽田空港に就航しました。

現在羽田空港は、4本の滑走路を保有し24時間運用できてソウルや香港と同じような国際的なハブ空港の規模を誇っています。もっと言うならば、単純に滑走路の本数だけだと、ソウルは3本、香港は2本なので羽田空港はこれらを大きく上回っています。

しかし現在もアジアのハブはソウル、香港、シンガポールです。

では一体どうして、滑走路本数が他のアジアのハブ空港より多いのに、羽田空港は国際的なハブ空港になれないのでしょうか。

ここをもう少し掘り下げていきます。

 

滑走路が4本あるけれどもまともに使える本数はゼロ

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羽田空港には上の地図に黒線でなぞった位置に滑走路があります。

それぞれの滑走路にはA滑走路、B滑走路、C滑走路、D滑走路と言う名称があります。ここからはこの名称を使って書いていきますが、位置関係を詳しく説明するとA滑走路は第一旅客ターミナルと国際線ターミナルの間、B滑走路はA滑走路の延長上でクロスするやつ(地図だと、天空橋駅の案内に黒線がかかっているの)、C滑走路は第二ターミナルから海に向けて見えるやつ、D滑走路は一番南にあるポツンと海に浮かんでいるやつです。

 

皆さんご存知の通り、都心上空には飛行制限がかけられており羽田空港から離発着する航空機は都心上空を突っ切って飛行することができません。

この影響で、A滑走路は離陸または着陸のみでしか使うことができません。B滑走路から離着陸すると川崎上空を通過することになるので、こちらも千葉方面からの着陸と東京湾方面への離陸のみの運用。

C滑走路は南風時に着陸しようとすると、都心上空を通過しなければいけないのでこちらも南風時は離陸のみの運用。D滑走路はB滑走路と同じ理由で、千葉方面からの着陸のみの運用になります。

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滑走路をフルに活用できる状況を1とすると、A滑走路は0.5、B滑走路は0.25*、C滑走路は0.75、D滑走路は0.5となり合計すると2になります。(各滑走路、南風運用時の「離陸」「着陸」で各0.25、北風運用時の「離陸」「着陸」で各0.25合計1として計算)

4本フルに使えると「4」になるはずの数字がたった「2」です。滑走路が4本もあるのに処理能力は実質滑走路2本分しかありません。

都心の飛行制限で羽田空港が受けている影響の大きさを分かっていただけましたか?

 

羽田の着陸料はソウルの4倍以上!

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IATA AIRPORT & AIR NAVIGATION CHERGES MANUAL (2008) ANA VISION 2010 3/4


日本の空港着陸料は高いと言う話はとても有名です。

航空機が空港に離発着して運航する際には、着陸料以外にも費用がかかるので着陸料が高いから必ずしもボッタクリとは言いませんが、こんなにも世界の空港と差がついてしまうと選びにくくなってしまいます。

これから先に香港の貨物などの需要を東京に移したいのであれば着陸料は安いほうがいいに決まっています。このブログで僕は何度もくり返し書いていますが、航空会社の利益率は非常に低いのです。なので、航空会社としてはどうせアジアに進出するならば税金や使用料などの経費は少ない空港で、国際的なハブ空港(乗り継ぎ客などの需要がある)に就航しようとします。

この観点から言うと、着陸料の高さに関してはもう少し努力した方がいいのではないかなと思います。(しかし、今の羽田はこれ以外にやる事があるのでこれは後回し)

 

今の羽田空港で発着数を増やす方法は2つだけ

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今の羽田空港で発着数を増やす方法は、滑走路を延伸することでも無く、高速離脱誘導路(高速脱出誘導路)を増やすことでも無く、都心上空を飛ぶか滑走路を増やすしか選択肢はありません。*1

現在羽田空港の滑走路は3000m級2本と、2500m級2本ありこの4本で国際空港に必要な滑走路の長さは十分確保されています。なので滑走路延伸の必要はありません。

また、高速離脱誘導路も既にある程度の数が整備されているのでもう十分です。誘導路を多く整備して複雑にすると、羽田空港に慣れていない外航のパイロットが間違った誘導路に進入してしまい、ヘッドオン(飛行機がお見合い状態になって見動きが取れない状態)や思わぬ事故を誘発してしまうことになります。

そのため今の羽田空港で発着数を増やすには、「都心上空を飛ぶ」か「滑走路を増やす」しか手段は無いと僕は思います。

一つずつ取り上げていきます。

 

滑走路を増やすと言っても…

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自分で言っておいて何だか気が引けますが、羽田空港で滑走路を増やすということは経済的にも環境的にも極めて難しいです。

もう羽田空港に滑走路を増設するスペースは無いので、海を埋め立ててその上に滑走路をつくることになります。

世界初の海上空港は日本であり羽田空港D滑走路も一部を埋め立てて建設したので、新たな滑走路を埋め立てて建設することは技術的には可能です。(補足ですが、羽田空港D滑走路は埋め立てと桟橋を合わせて建設されたハイブリッド滑走路です。ハイブリッド滑走路もこの羽田空港D滑走路が世界初です。)

しかし、C滑走路の外側に新たな滑走路を建設するとなると芝浦ふ頭方面に進入する船の航路に影響が出ます。船の航路に影響するだけでなく、埋め立てを行うことで河川から海に流れる水の流れをせき止めてしまったりして、東京湾の潮の流れが変わってしまう可能性も現時点で否定できません。

そのような事を確認したり、対策を練ったりしてから設計、着工、埋め立て、整地、舗装整備、設備工事、設備点検、飛行検査、飛行ルートを整備・公表してようやく完成なので数十年単位での計画になります。

また、新しい滑走路(以下、「E滑走路」とする)を供用開始すると必ずC・D滑走路の運用にも影響が出ます。

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E滑走路を建設する際にオープンパラレル滑走路(滑走路間隔1,310M以上)にするのは確実なので、オープンパラレル滑走路の要件であるC滑走路から1,310Mの距離を確保した位置に黒線を引きました。

現在使用しているC滑走路から北に離陸する際は、都心の飛行制限の影響で離陸後大きく右旋回をして、地図上に書いたE滑走路のイメージ位置の右上にある埋め立て地の上空を通過します。

E滑走路から離陸する航空機も都心上空を通過することは出来ないので、もし将来E滑走路ができてもC滑走路からの離陸機の航路とぶつかってしまうことになります。

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なので、新しくE滑走路を建設して供用しても、ただそれはC滑走路の役割を無くすことになります。莫大な費用と時間を費やして滑走路をつくっても、ただC滑走路の役割を移すだけだと割に合いませんよね。

また、滑走路を供用するときには悪天候などの理由により航空機が着陸をやり直したときの経路(進入復行経路と言います)を設定する必要もあります。

通常3本の平行滑走路で進入復行経路を設定する場合は、左右の滑走路は滑走路の角度からそれぞれ外側に30°以上の角度を保って上昇する経路と、中央の(C)滑走路は直進上昇をする経路を設定します。(これ以外の設定方法はありません)

しかし、羽田空港の北直線上には絶対に上空を飛べない皇居があります。

もし、C滑走路の進入復行経路が皇居上空にかかるとなると、C滑走路は進入復行経路が設定できなくなる可能性があります。そうすると、E滑走路を建設すると北風時のC滑走路の役割が無くなってしまう可能性があります。

なので、羽田空港に新滑走路を建設するのは経済的にも環境的にも負担が大きく、完成し供用開始しても管制上の懸念事項が多く残ります。 

 

羽田空港は都心からのアクセスはいいですが立地は最悪です。

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「アクセスがいいのに立地は最悪って、こいつ何言ってんだ?」と思った方もいらっしゃると思いますので、この言葉を補足説明すると羽田空港は都心からの交通アクセスはいいですが、空港としての立地は最悪と言うことです。

羽田空港は鉄道を使うと20分足らずで品川などの都心に到着してしまいます。これは、他のアジアハブ空港と比べてとても好アクセスです。例えばお隣りの国にある仁川国際空港から市内までは、高速鉄道を使って50-60分もかかります。

しかし、羽田空港は都心から近すぎるため先述のような飛行制限の影響を大きく受けています。

なので、羽田空港は交通アクセスは抜群に良いのですが都心から近すぎるため飛行制限の影響を受けるような場所に位置し、空港としての立地は最悪だと僕は思っています。

詳しくは、【わかりやすい! 中学生社会科】ハブ空港がもたらす経済効果と、求められる要件。 を参照。

 

新ルートは最終手段にして、現在唯一の選択肢

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いままで僕が書いた羽田空港の発着数を増やす方法を見ていただいた皆さんは理解できると思いますが、滑走路を新しく建設しても都心上空を飛ばないと発着数を増やすことは不可能に近いのです。

しかし、都心上空を飛ぶことは周辺住民から反対の声が出ることは必至です。

騒音問題、落下物、不動産価値などなどの諸問題と向き合うことは周辺住民の理解を得ることはもちろん、安全な航空機運航を考えるという上で非常に大切なことだと思いますし、双方が折り合えるような結果を導こうとする姿勢も大切です。

 

標準降下角を3.5°にする必要ってあるか?

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通常飛行機が降下する角度は3°となっています。つまり単純計算で滑走路から2マイルの位置では高度約600ft、10マイルの位置では3000ftになります。(10ft=約3m)

しかし羽田空港新ルートで進入する際には国交省によると、この通常3°の降下角を騒音対策のため3.5°にするそうです。つまり、滑走路から10マイルの位置では高度3500ftになるらしいです。

僕はこれを知った瞬間「住民騙し」だなと思いました。高度3000ftで通過しようが、3500ftで通過しようが飛行機の音に敏感な人はうるさい!と言うでしょうし、飛行機の音を気にしない人はなんとも思わないでしょう。それを国交省が「努力しました」みたいに発表したので、この0.5°の差に騙される人もいると思います。

また、降下角を3°から3.5°にすることで失速(の警告が計器に出る)や滑走路に機体後方をぶつけるいわゆる「しりもち事案」が発生する危険性が高まると僕は思っています。国際空港のほぼ全ての標準降下角は3°です(僕の知っている限りでは全て)。国際的な取り決めでは適正角は3°で2.5°から3.5°までは許容範囲での設定が認められています。

しかし、多くの(ほぼ全ての)パイロットは3.5°での実機進入は経験したことが無いでしょう。

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歴史的にみても、また航空医学の「注意水準」からみても3.5°の進入を無事に完了し着陸した後に何かミスを犯す可能性が高まります。パイロットがいつもとは違う3.5°の進入に集中している時は、エンジンの出力や計器の表示、聞こえるエンジンの音に異常がないかが瞬時に判別できます。

しかし、着陸後にいつもとは違う緊張から解かれた後に思わぬミスをしてしまうことが歴史的にも多くあり、この緊張から解かれた直後の状態を注意水準が低い時と言います。

この注意水準が低い時には発生した事故・事案は「ヒューマンエラー」によるものとされています。

考えられるケースとしては、工事作業のため閉鎖中の誘導路に誤進入してしまうことや、滑走路から離脱する際に十分な減速をし忘れ滑走路から逸脱してしまうことです。

つまり、標準降下角を3.5°にすると失速、しりもちが発生する危険性が高まるだけで無く、世界でも稀な降下角に集中や緊張したパイロットが着陸後にヒューマンエラーを起こす危険性まで高めてしまうかもしれません。

このような理由から僕は降下角を3.5°にするべきでは無いと思います。

 

日本はガラパゴス管制をやめるべきなのか。

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※ここからは、新ルート反対派が提案している意見の中で、僕が納得できないことについて書いていきます。反対意見を書きますが、これから書くこと以外は双方の意見を概ね同感していると捉えていただいて差し支えありません。※

また、かなり専門的な内容を書きますが、内容や用語についていちいち説明しません。この記事は国交省の説明文とは違うので分かる人に理解してもらえばいいと考えて書いています。

ガラパゴス管制についてはこれを見てください。その他新ルートについてよくまとめてあります。↓↓

ameblo.jp

着陸機が迫っている場合、日本では離陸機に対して滑走路に進入する管制指示“Line up and wait.”は、着陸機が離陸機の前を通過した際に発出されます。

しかし、この指示は海外では違ったものになります。例えば僕が以前聞いたことのある香港では"Behind next landing aircraft heavy B747 2nm, line up (and wait) runway 07R, behind."と言っています。

このように着陸機が離陸機の前を通過する前に、トラフィックの情報を与えそのトラフィックの後方を通り滑走路に進入しなさいという意味です。

この香港でのフレーズはとても研究されていて、パイロットのことをよく考えた内容になっています。まず始めからBehind next landing~と言うことで、今すぐ行動する指示でない(条件付きである)事を示唆し、機種や現在地を伝えてからLine upの指示を出してその後、パイロットが条件付きな事を失念していたらば大変なので、再度強調するために最後にまた"behind"と言っています。

つまり、このLine up and wait.の指示は条件付きならば条件付きであることを何度も強調しなければいけないほど重要な指示なんです。この重要な指示をパイロット任せの条件付きで発出して果たしていいのか疑問です。

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香港国際空港は滑走路を2本保有し1本を離陸用、もう1本を着陸用に使用しています。しかし、一部の貨物便は例外的に離陸用の滑走路に着陸することになっています。なので、さっき書いたBehind next landing aircraft.の指示は一部の貨物便が着陸する時にしか使用されず、使用回数が少ないことが分かります。

もし反対派の方々のおっしゃるような福岡や羽田で使うことを目的に、管制方式を国際基準に変更すると交信量が大幅に増えて、その指示を必ずしも1回で理解出来るパイロットが全てとは思えませんし、もし理解できなかったとしたらば長いフレーズを2回、3回と繰り返すことになります。

単にLine up and wait.ならば、世界中のパイロットがほぼ毎フライト聞くフレーズなので聞き直すことはほとんどないです。しかし、聞き慣れず長いフレーズになるとパイロットからSay again? Confirm?が増えてしまいます。

発着数を増加させるためにガラパゴス管制をやめるのに、ややこしい指示で1機あたりの無線占有時間が増えると、発着数を増やすことはできません。

似ている事例で、管制官が処理能力を向上させようと早口で指示を出した結果、早口すぎてパイロットが内容を理解できずSay again?と言えば、管制官はもう一度指示を繰り返すことになり、また今度はゆっくりと言い直さないといけないので、まさに本末転倒だと言えます。

航空無線の時間は有限ですので、余計な指示は増やさずにCleared to land.→Line up and wait.→Contact ground.→Cleared for take off.の形を維持した方がいいと思います。

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指示内容が長すぎると有限の通信量に影響が出る一方、短すぎると一部を聞き取れなくてLine upだけ聞こえたパイロットが滑走路に誤進入する可能性もあります。実際にBe ready for immediate take off.のBe ready forを聞き逃しimmediate take off.と指示を誤認したパイロットが誤って離陸し、滑走路上にいる別の航空機と衝突する事故が過去に海外で起こっています。

この聞き間違いや通信時間の問題を解決しない限り、僕は現在の滑走路進入指示を変えることには反対です。

 

うまく発着数増と周辺住民の声のバランスを取りながら、空港の持っている機能と管制官の能力を最大限に発揮したパフォーマンスができれば発着数の増加はもちろん、経済効果や世界に首都東京をアピールする武器になると僕は考えています。

そして、発着数が増えて多くの航空機が就航するようになると訪日外国人が増えて、その恩恵は政府や財閥だけでなく、地方創生の源になることはいうまでもありません。

高搭乗率の伴ったハブ&スポーク型を実現できれば、日本の航空会社が元気になるでしょう。そうして利益が増えれば、サービスの向上や最新機種の導入、路線拡大………と目立つことができて、日本の航空会社は世界中のaviation geeksから「あーJapanのANAね!」とか「great serviceのJALね!」「Oh!! Haneda!Haneda!」と有名になることは僕が保証します。

「ラックス」と言えば世界中どこの航空ファンでもロサンゼルスと分かります。それと同じように「Haneda!HND!」と言うと「日本,東京」と結びつくようになればいいなと思っています。

 

最後はちょっと僕の夢物語を語りましたが、今回はここまでにしようと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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*1:この意見は、都心上空飛行ルートを肯定する訳でも、盲信している訳でもありません。